近年はソフトウェアによる制御や通信機能、データ解析によって、製品の高性能化・高付加価値化が進んでいます。特に、SDV(ソフトウェア定義車)の普及や、スマート家電・産業用ロボット・医療機器の高度化など、ソフトウェアが製品競争力を左右する場面が増えています。組込みエンジニアの重要性はこれまで以上に高まり、業界全体でニーズ拡大が続くでしょう。
本記事では、組込みエンジニアが今後のキャリア形成において押さえておきたい最新トレンド――IoT・エッジAI、5Gなどの技術・スキルについて、わかりやすく解説します。
1. 組込みソフトウェア開発エンジニアの注目トレンド
自動車、家電、医療機器、産業機器といった分野で、ソフトウェアが果たす役割は急速に拡大しています。これまで組み込みソフトウェアは、機能制御や安全監視といった領域で使われていました。しかしIoTが浸透した今は、クラウド連携やAI解析、遠隔制御といった高度な機能が求められるようになり、あらゆるハードウェアがネットワークでつながる時代へと進化しています。
中でも注目されているのが、自動車業界のSDV(ソフトウェア定義車)です。これまでのようにハードの性能で競うだけでなく、ソフトウェアのアップデートで新機能を追加し、車の価値を持続的に高めていく時代に突入しています。
スマート家電や産業用ロボットなどの分野でも、IoTやAI活用による高機能化が進み、組込みソフトウェア開発の重要性はますます高まっています。
一方で、業界全体でエンジニア不足が深刻化しています。最近は特にAI、5G、セキュリティ、MBD(モデルベース開発)などの先端スキルを持つ人材の需要が急増しています。
ここからは、組込みエンジニアが注目すべき最新トレンドを紹介します。
2. ①IoT・エッジAIの浸透
IoTの普及により、あらゆる機器がネットワークを通じてデータをやり取りし、相互に連携する仕組みが一般化しました。家電や産業機器、医療機器などの分野では、センサーを通じて取得したデータを分析し、最適な制御を自動で行うシステムが求められています。
さらに近年は、クラウドへの依存を減らし、デバイス側でAI処理を行う「エッジAI」が注目を集めています。エッジAIは、通信遅延を抑えながらリアルタイムに処理を行える点が特長で、自動車の運転支援や医療機器など、高速かつ高精度な判断が必要な領域で導入が進んでいます。
組込みエンジニアにはAIモデルの軽量化や最適化技術に加え、センサー制御・通信プロトコル・データ処理・機械学習モデルといった幅広い知識が求められています。IoTとエッジAIの融合は、組込み開発の領域を一段と拡張し、エンジニアの活躍の場を広げていくでしょう。
3. ②5G―通信技術の進化
5G(第5世代移動通信システム)は、「高速通信」「低遅延」「多数同時接続」という3つの特長を持つ最新の通信技術です。現在は4Gから5Gへの移行期にあり、組込み開発の現場でも5Gを前提としたソフトウェア設計・通信制御技術が求められています。
たとえば自動車分野では、5Gの低遅延通信を活用したV2X通信によって、車両やインフラ間でリアルタイムでの情報共有が可能です。また、医療機器分野では、手術ロボットの遠隔操作や、救急搬送中に患者データを送信して迅速な初期診断を行う仕組みなど、5Gの特性を活かした新たな応用が進んでいます。
組込みエンジニアには、5Gの特長を踏まえて、リアルタイム制御、遠隔操作、大容量データ連携を実現できるシステム開発力が求められています。5G対応の組込み機器を設計・検証できるスキルは、エンジニアとしての市場価値を大きく高める要素となるでしょう。
4. ③セキュリティ
IoTの普及により、あらゆる機器がネットワークでつながる一方で、サイバー攻撃のリスクも高まっています。組込み機器が外部と通信することで、システムの脆弱性が狙われやすくなり、不正アクセスやデータ改ざんといった被害が発生する可能性が指摘されています。
そのため、組込みエンジニアには、暗号化通信・認証・ファームウェア改ざん検知・セキュアブートといったセキュリティ実装スキルが求められています。後付けの対策ではなく、設計段階からセキュリティを組み込む「セキュア・バイ・デザイン」の考え方も欠かせません。
さらに、自動車や医療機器など人命に関わる分野では、国際的な安全規格であるISO 26262(機能安全)やIEC 62304(医療機器ソフトウェア)への準拠や、リスクアセスメント・安全性評価の知識も不可欠です。今後は、セキュリティを理解した上で安全かつ信頼性の高いシステムを構築できる組込みエンジニアが、ますます重宝されるでしょう。
5. ④モデルベース開発(MBD)
近年、組込みシステム開発の効率化と品質向上を目的に、モデルベース開発(MBD)の導入が急速に広がっています。MBDでは設計段階から動作モデルを作成し、シミュレーションによって挙動を検証するため、実機を使わずにソフトウェアの動作確認が可能です。これにより、開発期間の短縮や不具合の早期発見が実現し、開発全体の生産性が大幅に向上しました。
特に自動車業界では、MBDが開発の標準プロセスとして定着しており、MATLAB/Simulinkなどのツールを用いた設計・解析スキルが重視されています。また、MBDはソフトウェア開発の上流工程(要件定義・設計・検証)に関わるため、エンジニアにとってはキャリアの幅を広げるうえでも重要なスキルです。
実務では、制御ロジックの検証やモデルからの自動コード生成など、MBDの仕組みを活用した開発が広く行われており、今後も採用企業が増えていくと考えられます。
6. ⑤テスト駆動開発(TDD)
ソフトウェアの大規模化・複雑化が進むなか、品質と保守性を両立させる開発手法として注目されているのがテスト駆動開発(TDD)です。TDDでは、まずテストコードを先に作成し、そのテストをパスするための最小限の機能を実装していくというプロセスを繰り返すことで、仕様の明確化と高品質なコードの維持を実現します。
組込みシステム開発では、ハードウェア依存コードやリアルタイム処理の影響により、テストが難しいという課題があります。しかし近年は、シミュレーション環境やモック(仮想デバイス)を活用することで、TDDの適用範囲が拡大しています。
TDDの導入により、開発初期の段階でバグを発見しやすくなり、ソフトウェアの品質を安定的に保つことが可能です。修正や追加の手戻りも減るため、保守コストの削減にもつながります。今後、信頼性が重視される組込みシステムの現場では、TDDは欠かせないスキルとなっていくでしょう。
7. トランスコスモスのエンジニアリングトランスフォーメーション本部の取り組み
トランスコスモスBPOのエンジニアリングトランスフォーメーション本部は、製造業のDXを推進し、ものづくりのエンジニアリングチェーンおよびサプライチェーンプロセスの最適化を支援しています。組込み開発の分野では、高品質な制御ソフトウェアの開発を通じて、製造業の「ものづくり」から「ことづくり」への変革を支える役割を担っています。
Matlab/Simulinkを用いたモデルベース開発(MBD)支援をはじめ、ソフトウェア開発、動作確認、機能検査・検証業務の支援など、開発の上流から下流までを包括的にサポート。MBDを活用することで、開発期間の短縮と品質の安定化を実現しています。
トランスコスモスのBPOサービスには、最新の開発手法を学びながら成長できる環境が整っています。最先端の開発プロセスに携わり、お客様企業の課題解決に取り組む中で、組込みエンジニアとしての専門性と市場価値を高めることが可能です。
組込みエンジニアとして企業成長に貢献したい方、最新技術を学びたい方は、ぜひトランスコスモスBPOの採用サイトをご覧ください。