2024年以降、生成AIとSDxがソフトウェア開発の在り方を大きく変えています。組込みシステム技術協会(JASA)が公表した「ソフトウェア駆動型社会への変革と日本の競争戦略」では、今後の技術動向やエンジニアの役割変化が明確に語られており、ソフトウェア開発企業にとっても大きな転換点となる内容が示されています。
この記事では、組込み開発エンジニアやソフトウェア開発エンジニアのキャリアがどのように変わっていくのか、そしてこれからの時代に求められる組込み開発エンジニアの“強み”を整理していきます。
SDxと生成AIがもたらす構造変化
SDx(Software Defined Everything)とは、あらゆるモノやサービスをソフトウェアで定義し、ユーザーのニーズや利用状況に応じて進化させていく概念です。自動車・家電・医療機器・産業機器・インフラなど、従来はハードウェア中心だった領域で、今やソフトウェアが製品やサービスの価値を左右するようになりました。
SDx戦略が本格的に機能するには、生成AIの存在が不可欠です。高速な試作開発、仕様変更、テスト生成、モデル更新など、SDxが求めるスピードと柔軟性は、AIによって実現されます。
組込みソフトウェア開発の市場は、今後大きく3段階で進化すると予想されています。
- 従来型:ルールベース中心
- AI支援型開発:人が主導し、AIがテスト生成やコードレビューなどで補助。
- 統合AI活用型開発:上流から下流までをAIが一体的に支援するエンドツーエンドの自律型開発
現在はAI支援型開発が急速に広がりつつあり、2035年以降は統合AI活用型開発が本格化すると言われています。
また、日本が世界競争力を高めるには、AI基盤技術を製品・社会インフラに統合する「ラストワンマイル」の強化が必須であり、ソフトウェア開発エンジニア・組込み開発エンジニアの重要性は今後さらなる高まりを見せるでしょう。
出典:一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)|JASAレポート ソフトウェア駆動型社会への変革と日本の競争戦略
組込みソフトウェア業界の今後
SDx、AI、クラウド、センサー技術の高度化により、製品は「単体」ではなく「ネットワークでつながる生態系」として価値を生むようになります。ソフトウェア開発エンジニアや組込み系の技術者には、ソフト、ハードをまたいだ総合的な視野が必要とされるでしょう。
今後、SDxと生成AIの普及により、「コードを書く仕事」は自動化される領域が増加します。これに代わり、価値が生まれるのは、アーキテクチャ設計、データ取得と活用戦略、安全性・品質の担保といった、エンジニアの知識・経験・判断力そのものです。
ソフトウェア開発・組み込み開発エンジニアの仕事は、単純な労務提供ではなく、「コンサルティング+技術実装」を統合した、より高付加価値な提供へと変わっていくことが予想されます。
これからのエンジニアに必要な強み
SDx × 生成AIが広がる中で、エンジニアには「仕様通りに作る」のではなく、「価値を設計し、AIとSDxを駆使して実現する」ことが求められています。
ここからは、これからのソフトウェア開発・組込み開発エンジニアが持つべき強みを4つの視点で整理します。
ドメイン知識 × AI × SDxをつなぐハイブリッドスキル
今後、製品そのものがデジタル化したサービスの形で提供されるようになり、ハード・ソフト・クラウド・AIの境界が曖昧になります。単なるコーディング能力から脱却し、専門領域の知識(ドメイン知識)、AI活用スキル、そしてソフトウェア定義化(SDx)を理解した設計力を横断的に統合する力が不可欠です。
- ドメイン知識と技術の統合
製造、車載、医療などの固有ドメイン知識を深く持ち、その知識を基に、AIモデルの選定・評価やSDxの設計をリンクさせる能力。
- 複合的な視点
「センシング→エッジAIで推論→クラウドに送信→SDx基盤で制御を最適化」という一連の流れを見据えた設計・最適化を行うスキル。
- 技術実装から価値設計へ
生成AIにコード生成を任せつつ、そのAIやSDxの能力を最大限に引き出すためのアーキテクチャ設計と制御最適化ロジックを生み出す力。
プロダクトの価値を定義する視点
エンジニアの役割は「仕様通りに作る作業者」から「プロダクトの価値の設計者」へと移行します。生成AIが技術的な作業を自動化するほど、何を作るべきかという上流工程の設計が差別化ポイントになります。
- ユーザー体験(UX)の設計
ユーザーの課題を深く理解し、それを技術仕様に落とし込むだけでなく、プロダクトがもたらす具体的な体験やメリットを明確に定義し、顧客に示せる力。
- 継続的価値の創出
SDxはソフトウェア更新を前提とするため、製品を単体で完結させるのではなく、継続的に成長し進化するサービスとしての価値を描き、設計する視点が必要。
データ活用の戦略立案
IoT化により組込み領域で取得できる膨大なフィールドデータを、どのように収集・分析し、ビジネス上の価値へと変換するかを、戦略的に立案する能力が求められます。
- データフロー設計
エッジAIとクラウドAIの役割分担を含め、機器から収集されるデータが「異常検知アルゴリズム」「稼働効率を高める制御ロジック」「フェールセーフ設計」といった具体的な価値に変貌するまでのデータフロー全体を設計する力。
- 専門家としての支援
企業単独では困難な高度なデータ戦略や活用ロジックの設計において、専門知識を持つ外部エンジニアが「コンサルティング+技術実装」をサポート。
チームや顧客との合意形成力
AIやSDxによって開発技術が高度化すると、チーム内外での合意形成がこれまで以上に重要になります。異なる専門領域同士の知識や要求を理解し、円滑に橋渡しできるスキルが必要です。
- 顧客との共創
サービス設計の初期段階から顧客と協力し、技術的な内容をわかりやすく説明して顧客の期待値と技術的現実のギャップを埋める力。
- プロジェクト推進力
多様なステークホルダーを調整し、スケジュール管理やリスク管理といったプロジェクトマネージャー的なスキルも広く担い、プロダクトの方向性を揃える能力。
まとめ|生成AI時代はエンジニアの価値が広がる時代
生成AIとSDxの時代において、ソフトウェア開発・組込み開発エンジニアに求められるのは、「技術を使う力」ではなく「技術を駆使して新たな価値を生む力」です。生成AIを効果的に活用し、SDx戦略を上流から下流まで一貫して推進する能力が必要となります。
技術的な専門性に加え、エンジニアの役割はマネジメント領域やビジネス領域へと大きく拡張するでしょう。お客様企業との調整力や、スケジュールやリスクを管理するプロジェクトマネージャー的な視点も欠かせません。
トランスコスモスのBPOサービスでも、ソフトウェア開発エンジニアが、新技術を活用しながら、多様なお客様企業の課題解決と生産性向上に貢献しています。お客様との直接的なやり取りを通じて、今後のエンジニアに重要となる折衝力や合意形成力を磨くことが可能です。段階的にリーダー業務を経験し、プロジェクトマネージャーへのキャリアアップもめざせます。
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